友人・恩師・クラブ・キャンパスライフ…
校友だから共感できる!
そんな学生時代の思い出をのぞいてみよう。
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納得のベストセラー!
確か、昭和50(1975)年7月初旬だったように思う。夏休み前に、京都大学から有名な先生を招いて、夏季講義があった。単位取得なしで、その都度、先生は入れ替わったと思う。つまり一回かぎりの授業だった。何故このようなことが行われたのか、知る由もないが、経営学部と経済学部の共通授業として行われ、様々な先生の講義が行われた。そこに著名な宮崎義一(1919~1998)教授が来られたので、これは是非受講したいと思い参加したのである。
それまでは、経済学の授業と言えば「原論Ⅰ」と「原論Ⅱ」が代表的なものであり、その中身はマルクスの資本論と近代経済学(マクロ理論とミクロ理論)など、いわゆる理論中心のものだった。そのため実証的な経済学的アプローチについては、ほとんど学ぶことが出来なかった。これは経営学部ということもあったのだろうが、当時はまだ、実証主義的な経済学が未発達で、理論のみが先行している時代だったこともあると思う。
授業が始まると、先生の真摯な姿勢から発する言葉の数々、それに加え極めて実証的な論証にしだいに引き込まれていった。他大学での授業であり、しかも学生のレベルがおそらく京都大学ほど高くないにもかかわらず、まったく手抜きをすることなく、授業を進めていく姿勢に感動した。普段は物静かで、こつこつと一途に研究されている雰囲気が身振りから伝わってくる。本物の学者とは、こういう人をいうのだと思った。
その授業内容は、多くの大企業の自己資本比率が上昇して、内部留保が高い伸び率を示しており、金融機関から依存せず経営が成り立つ状況になっているというものだった。その典型がトヨタ銀行と呼ばれるくらい自己資金が潤沢にあるトヨタ自動車。このことから金融機関の貸付先として、優良企業が益々先細りとなり将来的に経営状況が困難になる可能性があるのではないか、そのような指摘だったように思う。講義後、私は、正直、こんな先生について学びたいと思った。実証的分析に基づき経済現象を読み解く素晴らしさを体験することができたからだ。その後、大学在籍中に米国のノーベル経済学賞を受賞した二人の経済学者の講演を聞く機会があったが、いずれも宮崎教授の講義の方が何倍も良かったのである。
そして先生の授業もすっかり記憶の彼方に消えていた平成4(1992)年、『複合不況』(中央公論)がベストセラーとなり、新語・流行語大賞を受賞された。この報を聞いた時、先生の授業を思い起こし『複合不況』を書店で買い求めに行き、帰宅後いち早く読んだ。
――あの時の講義内容が見事に生かされている。ずっと一貫した姿勢で研究されていたからこそ実を結び、この本に体現したんだ!
私はひとり納得した。あれだけの実証的研究をされている方なら当然だと――。
私にとって、大学時代の忘れ得ぬ講義である。